フルムーン
帰り道にふと夜空を見上げると、眩しいくらいに輝く月が浮いていた。
ああ、そうか。今日は満月だったな。
雲もなく、風もなく。
ただそこにまぁるい月が浮いていた。
「綺麗だな」と純粋に思った。
家に帰り、いてもたってもいられずカメラと三脚を用意した。
思えば三脚まで引っ張り出すのは久しぶりだ。夜景の撮影ぐらいにしか使わないから。
そして月を撮った。
月はほんとうに明るく綺麗だった。
ここでもまた月の美しさに心打たれた。
帰り道に近所の老夫婦と会話した。
普段は挨拶ぐらいはするものの、会話をした記憶はない。
でも、この時ばかりはみんなで月を見上げながら会話が弾んだ。
家に戻り撮った写真を見直していた。
ふと月を見ながら一杯やりたくなったので、カクテルを用意した。
『フルムーン』
満月の名を冠すそのカクテルを片手に静かに光を放つ月を見上げながらしうの助の唇は言の葉を放つ。
「満月に、乾杯。」
静かに更ける、秋夜の一幕。